生活習慣病の代表格といえば高血圧です.糖尿病やコレステロールの異常も重要ですが、最近では肥満者が急激に増加して社会問題になってきています.
肥満とは
「肥満」とは体内に脂肪が過剰に蓄積した状態をいいます.肥満の診断には体脂肪量を測定します.正確で簡便な体脂肪測定方法は普及していないため体格指数を用います.一般にはBMIを用います.BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値です.わが国では有病率、死亡率ともにBMIが22〜23で最も低いことから18.5以上、25未満を普通体重、BMIが25以上を肥満と診断しています.ちなみに世界保健機構(WHO)ではBMIが30以上を肥満としています.わが国では肥満度が低い人でも有病率が高い(小太りでもメタボ)ため欧米とは異なる基準を用いています.
肥満とメタボリックシンドローム
肥満に内蔵脂肪の蓄積や健康障害が加わると「肥満症」といいます.さらに高血圧症、糖尿病またはその予備軍(耐糖能異常)、脂質異常症の2つ以上が加わると「メタボリックシンドローム」と診断されます.内蔵脂肪蓄積、高血圧症、2型糖尿病、脂質異常症が全部揃うと「死の四重奏」と呼ばれます.
肥満が悪さをする仕組み
近年、脂肪細胞からアディポサイトカインという物質が分泌され、いろいろな働きをしている事が分かってきました.過剰な内蔵脂肪蓄積は脂肪組織からアディポサイトカインの分泌異常をひきおこし動脈硬化性・血栓性の血管病変を進行増悪させるとともに血圧異常や糖尿病、脂質異常症の発症・増悪に関係しています.
肥満の治療
肥満の治療に王道はありません.食事療法と運動療法が主体ですが実行と継続には困難が伴います.脱落やリバウンドが多いといった特徴があります.過食と運動不足が主な原因ですが、ストレスによる過食や間食、早食いなど、他にも数多くの肥満を助長する要因が存在します.総合的にライフスタイルを改善していくことが大切です.わずか3kgの体重減少でも合併症予防効果がみられます.
肥満の外科治療
一部の高度肥満の患者さんに対して(美容外科ではない)手術が行われています.摂食量を制限する方法と消化吸収を抑制する方法が行われています.BMIが40以上、または35以上で重い合併症を持っている患者さんが対象です.
夢の抗肥満薬
長い間待ち望まれて来た肥満治療薬がいくつか試験段階に入っています.すでに摂食調節物質を中心とした食欲異常による肥満のしくみが分かって来ています.実用化される日も近いかもしれません.
肥満とがん
わが国で最近増加している大腸がん、乳がん、子宮体がん、前立腺がんなどは、食事の欧米化や肥満が大きな要因といわれています.肥満によるアディポネクチン分泌異常やインスリン抵抗性によって発がんの危険性が高まることが分かってきました.また、日本人が欧米化した食事を摂ると白人よりも大腸がんになりやすい事実も判明しています.
肥満が引き起こす生活習慣病:肥満と高血圧
一見関係がないように思われる肥満と高血圧ですが、密接に関連していることは多くの研究によって証明されています.米国では高度肥満の人の高血圧の頻度は3倍、わが国でも30歳代の男性で肥満者は3.5倍高血圧になりやすいと報告されています.血行動態やアディポサイトカインの分泌異常からインスリン抵抗性など、さまざまな仕組みで血圧が上昇することが分かってきています.肥満は血圧上昇だけでなく糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こし、相互に関連しながら動脈硬化を促進させ、脳卒中や虚血性心臓病などの恐ろしい事態を招く事になります.
高血圧の話
「高血圧は怖い」とよく言われますが、なぜ血圧が高いと良くないのでしょうか? 高血圧を放っておくと動脈硬化が年齢よりも早く進み、脳や心臓、腎臓などに重大な病気を引き起こし、取り返しのつかないことになってしまいます.なかでも脳卒中はわが国の「寝たきり」の原因の第1位であり高血圧が最大の危険因子です.健康寿命を長く保ち、脳卒中や心臓病などの合併症で倒れないために日頃から高血圧について正しい知識を持ち、適切な血圧を維持する事が大切です.
血圧とは
Ø 血圧は常に変動します
Ø 血圧とは全身を循環する血液が血管の壁に与える「圧力」のことをいいます
Ø 収縮期血圧/拡張期血圧 で表します
Ø 血圧は常に変動し、一定ではありません.緊張・興奮、部屋の寒暖の差、季節によって変化します
Ø 通勤、会議、化粧、コーラスでも10〜20 mmHg 上がります
Ø 正常血圧だから安全という訳でもありません
血圧が上がる要因
¨ 心拍出量・末梢血管抵抗・循環血液量の増加
¨ 日本人は12g/日と先進国では最も多く食塩を摂取していますちなみに英国は8g/日、米国は9g/日と報告されています
¨ 塩分を摂り過ぎて体内のナトリウムが増えると、循環血液量が増えて血圧が上がります
¨ 食塩摂取量が5g増加すれば脳卒中は23%増加します
¨ 肥満:高インスリン血症è血圧上昇
¨ 運動不足、飲酒、ストレス、加齢
家庭血圧の測り方
· 静かな部屋で測りましょう
· 家庭用血圧計のカフ―オシロメトリック法は聴診法で信頼性が裏付けされています
· 必ず上腕―カフ血圧計を用いましょう
· 朝の血圧:起床後1時間以内、排尿・洗顔後、朝食・服薬前、座位で1〜2分安静後
· 就寝前の血圧:座位で1〜2分安静後
· 白衣高血圧、仮面高血圧、職場高血圧の評価に有用です
どのくらいの血圧値から危ないのでしょうか?
Ø 脳梗塞は140~159/80~89mmHg以上で増加
Ø 脳出血は120~139/80~89mmHg以上で増加
診察室より家庭血圧の方が高い「仮面高血圧」や朝方の血圧上昇が著明な「早朝高血圧」の高血圧患者さんは脳卒中や虚血性心臓病を起こしやすいことが分かってきました.こういった血圧異常の方は厳重な注意が必要です.
高血圧症は最も身近でありふれた生活習慣病です.「静かなる殺し屋」とも呼ばれるように放っておくと大変な事になって後で後悔することになります.血圧に不安を感じたらまず専門医に相談してみて下さい.